陰暦二月十五日、釈尊入滅の日に、全国の各寺院で営まれる法会で、現在は三月十五日に行うところも多い。「仏生会」(ぶっしょうえ)「成道会」(じょうどうえ)とともに三大法会(三仏忌(さんぶつき))の一つとされ、古来、仏教各宗派で法要が営まれてきました。
日本では推古天皇の時代、奈良の元興寺(がんごうじ)で行われたのが最初で、やがて全国の寺院に、のちに民間へも流布していきました。「涅槃」とは、サンスクリット語で″ニルヴァーナ″といい「吹き消すこと」を意味します。煩悩の炎を吹き消し、さとりを開いた状態のことで、一般には、釈尊の入滅をさすことばとしても使われています。釈尊はクシナガラにある沙羅双樹(さらそうじゅ)のもとで八十歳の生涯を終えました。
この日、各寺院では「涅槃図」を掲げ、『遺教経(ゆいきょうぎょう)』(釈尊の最後の説法を記した経)などを読誦します。
涅槃図には、釈尊が右脇を下にして横臥し、周囲には仏弟子をはじめ鬼神、動物など森羅万象ことごとくが嘆き悲しむようすが描かれています。有名なのは、京都・東福寺の明兆(みんちょう)の筆になるものです。三月十四日から三日間だけ、一般参詣者にも拝観を許されています。この涅槃図のおもしろいところは、嘆き悲しむ動物たちのなかに、ふつうは決して登場しない猫が描き込まれていることです。
法隆寺、四天王寺で催される涅槃会は「常楽会(じょうらくえ)」、京都の報恩寺(千本釈迦堂)では「遺教経」の訓読が行われることから「遺教経会(ゆいきょうぎょうえ)」、熊本県の大慈寺での「おねはん祭」、長野県善光寺では「御会式(おえしき)」とよばれています。
京都嵯峨の清涼寺(せいりょうじ)で行われる「お松明(おたいまつ)」も有名で、これは本堂の涅槃図の前で念仏した後、境内で三基の大松明を燃やし、釈尊の荼毘(だび)を再現するといわれる火祭りです。
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